地方移住の最大のハードルは「人材としての市場価値が下がりそう」

私の母は、私が九州に帰ってくることに反対していて、移住してからもしばらく怒っていました。
こっち(九州)には仕事がないから、そのまま東京で働き続けなさい、と。
これまではその理由が分かっていなかったのですが、フリーランスになるにあたり、改めて母とディスカッション(ケンカと言うほど激しくないけど、会話と言うほど優しくもない)したところ、母が何を心配していたのか、やっと理解できました。

私なりの解釈ですが、「地方で数年働いたら、人材としての市場価値が下がって、もうどこにも行けなくなってしまう」という心配だったようなのです。
市場価値について補足すると、年齢が上がれば上がるほど就職難易度は上がる(=求められるスペックが高くなる)ので、相対的な意味で価値が下がる、ということも含まれます。
どこにも行けなくなるというのは、刺激が足りなくて飽きてしまっても、もう東京には戻れないからね、みたいなニュアンスでした。

そういうことなら、正直なところ私も全否定はできません。
先日、ウェブマガジン『ひみつ基地』で書いた以下の記事にも通じます。
全国の求人倍率が1.0倍超なのに、まだ地方に仕事がないの?-地方に足りないのは、「そこそこ生産性の高い仕事」

生産性の高い仕事をしなければ(もしくは仕事の生産性を上げるということにチャレンジしなければ)、個人の生産性は上がらないように思います。
「6人が2個ずつイチゴを食べました。イチゴは全部でいくつあったでしょう?」という問題に対して、足し算しか知らずに「2+2+2+2+2+2=」と計算するか、掛け算を知っていて「6×2=」と計算するか、というと伝わるでしょうか。
生産性の高い仕事のやり方を身に着けるということは、足し算だけでなく掛け算も使えるようになる、というイメージです。

せっかく足し算をマスターしたところに、掛け算という新しいことを習うと「また難しくなった。もう嫌だ」みたいな気持ちになることもあると思います。
掛け算くらいであれば良いかもしれませんが、例えばエクセル。一通りは使えるけどマクロまではちょっと…と思っている人は少なくないでしょう。(私もその一人)
仕事の難易度が上がり、マクロが使えないと仕事が終わらないという状況になれば勉強すると思いますが、気合でいけるうちは多少時間がかかってもそのままでいくかもしれません。

前述の算数の問題も、このままなら足し算で押し切れますが、62人が17個ずつ、となれば足し算で押し切るのは難しくなってきます。
そういう意味では、「仕事の生産性を上げることにチャレンジ」するためには、「仕事の難易度を上げる」ことも重要です。

移住するクリエィティブな人々が起業や独立を選ぶのは、仕事がないこともあるかもしれませんが、仕事の難易度を上げて、自分の市場価値を下げないようにしているのかもしれません。
地方移住において、求人自体はあるにも関わらず「仕事がない」と二の足を踏んでいる人たちは、この辺りがハードルになっているのでは、と思ったのでした。